アルムナイ(卒業生)とのつながりを大切に。スープストックトーキョーの「バーチャル社員証」とは?

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アルムナイ(卒業生)とのつながりを大切に。スープストックトーキョーの「バーチャル社員証」とは?

バーチャル社員証―それはSoup Stock Tokyoで働いていた社員・パートナー(アルバイト従業員)の人と、卒業後もつながり続けるもの。最近注目されつつある「アルムナイ採用」(出戻り採用)とも一線を画す、スープストックトーキョーさんならではの素敵な人事制度をご紹介します。

食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を展開する株式会社スープストックトーキョーは、“世の中の体温をあげる”を理念に、社員やパートナーの体温をあげるための人事制度を作ってきたそうです。今回は、副社長の江澤様と広報の吉本様に、スープストックトーキョーのアルムナイ制度にこめられた想いとこだわりの取り組みについてお話を伺いました。

株式会社スープストックトーキョー 取締役副社長 店舗営業部 部長

江澤 身和氏(左)

2005年、アルバイトパートナーとして入社。社員登用後、複数店舗の店長を歴任。その後、法人営業グループへ異動し、冷凍スープの専門店の業態立上げと17店舗の新店立上げを牽引。2016年2月、㈱スープストックトーキョーの分社に際し、取締役兼人材開発部部長に着任。 “人を大切にする”を基軸とした14の人事制度を展開し、本質的な採用・育成の仕組みづくりに取り組む。2018年12月、「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2018」 において、チェンジメーカー賞を受賞。2019年4月に、取締役副社長と店舗営業部部長に着任した。

株式会社スマイルズ クリエイティブ本部 広報部 スープストックトーキョー 広報担当

吉本 百江 氏(右)

2014年、株式会社スマイルズに新卒入社。Soup Stock Tokyoでの店舗勤務を経て、入社2年目から採用担当に着任。2016年、株式会社スープストックトーキョー分社後、人材開発部にて採用・人事制度刷新・インナーブランディングに従事する傍ら、ブランドコミュニケーション部を兼任し、各種施策のコミュニケーション設計から編集・ライティング・SNS、広報を行う。2019年4月より現職、スマイルズ、スープストックトーキョー両社を担当する。

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スープストックトーキョーのよさは、”こだわり”の強いところ

スープストックトーキョーのよさは、”こだわり”の強いところ

これまでアルバイトから17店舗の立ち上げなど様々な仕事を経験されてきた江澤さんにとって、 スープストックトーキョーはどんな会社ですか?

江澤氏:
スープストックトーキョーは、こだわりを強く持っている会社です。

私がアルバイトから社員になったきっかけの一つなのですが、スープストックトーキョーで働いている方々はいい意味でいつも現状に満足していないんです。
「もっとこうだったら良くなるのに」、「もっとこうするべきじゃないか?」ということを諦めずに考えるところがあって。人に対しても、お店や提供する商品一つに対しても、自分たちの作品だと思っている―そんな”こだわり”の強さに、私自身も共感しています。

アルバイトのときからその”こだわり”の社風を感じられていたんですね。

江澤氏:
自分がアルバイトをしていた当時は、新商品が出たらポスターではなく手書きで黒板に書いていたんですよね。そういうのも「もっとこうだったらいいんじゃないか?」と店長に言うと、「じゃあ一回そうやってみよう」と書き直すこともありました。

みんな向上心があって、柔軟ですし、フットワークも軽いんです。現場に起きていることに対して「なんでこうなっちゃうの?」、「もっとこうしてみよう」をちゃんと聞いて、一緒に考えてくれる仲間がいるのがすごく強い部分かなと思います。

そんなスープストックトーキョーさんではオリジナルの「人事制度」がありますね。

江澤氏:
スープストックトーキョーが分社した2016年に、これまでの人事制度のブラッシュアップと、新しくオリジナルの人事制度を作りました。まずは自分たちなりの目指すべき姿と評価をリンクさせた評価制度を導入して、それから「働きかた」「エンゲージメント」「人材開発」に向けたそれぞれの施策を「パートナー向け」「社員向け」「社員・パートナー向け」に用意しています。

スープストックトーキョーのオリジナル人事制度

「世の中の体温をあげる」という会社の経営理念のもと、お客様の体温をあげるために、社員もパートナーも巻き込んでみんなの体温をあげていくことを考えています。その制度の一つが、社員・パートナー向けのエンゲージメント施策「バーチャル社員証」です。

「バーチャル社員証」はどのような制度ですか?

江澤氏:
社員やパートナーを卒業したあともスープストックトーキョーと繋がり続ける制度です。バーチャル社員証があれば、働いている人と同じように、どこのお店に行っても10%引きで食事ができますし、メルマガや社内報で情報を得たり、試食会や社内イベントに参加できたりします。

名前の由来は、エストニアで始まった「バーチャル国民」の制度。「納税さえすれば誰でもバーチャル国民になれる」という社会制度を社長の松尾が面白いと言って、スープストックトーキョー流に「バーチャル社員証」と名付けたんですよ。

つながりを大事にするために、バーチャル社員証をつくる

つながりを大事にするために、バーチャル社員証をつくる

「バーチャル社員証」はどんなきっかけで立ち上がったんですか?

江澤氏:
もともとスープストックトーキョーの元社員や元パートナーさんとは、それぞれ個別につながりがあったんですよね。私も、以前店長をやっていたときのパートナーさんとは、新商品が出ると感想を送ってくれるような関係性があります。

スープストックトーキョーで働かれていた方はブランドへの共感があって、辞めたあともファンで来てくれている方が多かったので、個々のつながりを仕組みとして「スープストックトーキョーの仲間ですよ」って示せるものを作りました。

卒業した方々に、どうやってこの制度を広めていったんですか?

江澤氏:
もともと働いていたパートナーさんには、今働いている社員から個別に連絡をしました。

店長のエリア会で「バーチャル社員証」を始めるお知らせをして、「今から20分くらいで自分の繋がっている人に案内状を送ってください」と言って広めてもらう、というすごく地道な広め方をしました(笑)。

社員からの連絡もテンプレート的な文面はしっかりは用意していなくて。それぞれが自分の言葉で「お久しぶりです!バーチャル社員制度というのが始まりましたよ~」って言うと、「お久しぶりです!え!バーチャル社員ってなんですか‥?」と返ってくる―そういう人間らしい感じでスタートするほうが弊社らしいなと思ったんですよね。

人のつながりから連絡して広まっていったんですね。

吉本氏:
はい。たまに「バーチャル社員証があるって聞いたんですけど、私も入りたいです!」とご連絡をいただくこともあります。スープストックトーキョーのホームページやSNS、メディアにとりあげていただいた記事などから知ってくださることもありますし、各店舗のOBのLINEグループなどで、誰か一人が「バーチャル社員証でお店に行ってきたよ」と言うと、「何それ!」となって一気に広まることも。私たち社員からだけじゃなくて、バーチャル社員になってくださっている方からも広がっていきました。

今は、退職するタイミングでバーチャル社員証制度に登録するんですか?

吉本氏:
社員やパートナーが退職するタイミングで、社員証と引き換えに「バーチャル社員証」に関して案内をしています。

ただ、登録をするかしないかは本人に選んでもらう形にしています。
もちろんなかには登録しない人もいますし、ご家庭の事情など、辞めざるを得ない事情があって申し訳ない気持ちで辞めた方は、今すぐには登録できないです……という方もいて。社員もパートナーもひとりひとりがこのブランドに対して想いを持って働いてくれているからこそ、「辞める」というのは個々人にとって大きな決断だと思うんです。

なので、その場で引き換えするより、自分のタイミングで登録できるほうが自然だよね、という議論になりました。自分の中での気持ちの整理がついて、大分期間があいてから登録してくれることもあるんです。それをみて「あぁ、嬉しいな~!」と管理画面の向こうで嬉しくなっています。

アルムナイ制度への”こだわり”は?

アルムナイ制度への”こだわり”は?

辞めた社員やパートナーまで巻き込むことは、いかに共感を生むかが大事だと思うのですが、アルムナイ制度ではどんなところにこだわっているのでしょう?

江澤氏:
そうですね。何かコトを発するとき、何かモノを送るとき、「自分たちが相手の立場だったら、どう思うんだろう?」ってことをよく考えています。

もし自分たちがもらったら、「こういうふうに言われていたら嬉しいな」、「こういうふうにされたらちょっとさみしいな」という気持ちをいろいろ考えて。例えば一つのメッセージやメルマガについても、どういう塩梅で「人の温もり」が出るかなと考えていますね。

バーチャル社員証の手紙――江澤さんからのメッセージ

吉本氏:
バーチャル社員証をお届けするときに送っている手紙もこだわりの一つです。

これは、5回ぐらいやり直したりして、かなりこだわって作りました。最初に江澤が考えた文章に対して、社長の松尾が赤字入れて、それを含めて書き直して、長すぎるからもうちょっと縮めて、伝わらないからやっぱり広げて……のように(笑)。自分たちが受け取ったとしたらどうか?を考えて、みんなの意見に寄せていきましたね。
会社からのご案内のようなテンプレートではなくて、江澤からの手紙として人の温もりを感じられるように工夫しました。

秋の試食会は同窓会のように

江澤氏:
バーチャル社員の試食会は、ただ意見がほしいというモニターテストとは違って、同窓会的な雰囲気で集まって話すようなものです。秋っぽいことを感じられるように装飾にもこだわりました。

最初私たちから新商品の説明をして、自己紹介をしながら、みんなで乾杯してスープを食べて、最後アンケートに答えていただいて。「普段どういうお仕事しているんですか?」、「このスープの味はどうでしたか?」、「スープストックトーキョーについて、どんな思い出がありますか?」などを聞いています。

「自分たちがもし同窓生で卒業していたら、どんな会に行きたいかな?」と話して、バーチャル社員だけでなくお連れ様を連れてきてもOKにしています。最初はバーチャル社員の本人しか参加できないものにしようかと話していたけど、もし自分だったら一人で行くってちょっと勇気がいるから、お連れ様を1人2人連れてこれる方が参加しやすいし、楽しいよねと話して決めました。

友達も一緒に連れてきてファンになってもらう

江澤氏:
バーチャル社員証は、店舗購入時にも割引ができるのですが、バーチャル社員さんの10%割引は一緒にいる人たちの分も適用できるんですよ。
自分の友達の分も10%割引なので、スープストックトーキョーを見かけると「あ、私今日割引できるから一緒に行かない?」みたいな感じでお店に行きやすくなってもらえたらいいなって考えました。

スープストックトーキョーで働いていたことを誇りに

スープストックトーキョーで働いていたことを誇りに

バーチャル社員証の方々の中で、アルムナイ採用(出戻り採用)としてまた働きはじめる方もいらっしゃいますか?

江澤氏:
いくつかあります。一つは、もともと関東でパートナーとして働いていた方が旦那さんの転勤で関東外に引っ越しをされたとき、新しい場所で新しいバイトは不安だから、「新天地の近くにあるスープストックトーキョーの面接を受けたいです」と連絡をくれて。バーチャル社員証事務局経由で面談して、また働きはじめることになりました。

あとはバーチャル社員証を送ったときにちょうどアルバイトを探していて戻ってきた人もいますし、8年前に辞めていろいろな仕事をしていた人が、バーチャル社員証のメルマガをもらっている中でまたやりたいと思って、つい最近に社員として戻ってきてくれた人もいます。

吉本氏:
バーチャル社員が1200人と考えると、そこまで採用実績は多くないですが……とはいえこの1,2年くらいで元パートナーさんや元社員さんが入社してくださっています。なので、すぐに成果が出ていないとしても将来的にそうしたケースがあればいいなと思っています。採用に急ぎすぎてコミュニケーションのあり方を間違えないようにしたいと思っています。

もともとアルムナイ採用をしたい!という理由で始まったというよりも、個人対個人のつながりをブランド対個人という形にできないかというきっかけで始まったので、「採用」は全面には出していません。一般のお客様よりもちょっと先に新商品の試食会に参加できるとか、その際に働く人目線でフィードバックをするとか、お客様とはまたすこしちがう立ち位置でブランドとつながってもらえたらと思っています。

そういうつながりや体験から改めて、「Soup Stock Tokyoが好きだな」、「身のまわりの人にお勧めしたいな」とか、そしてもしタイミングが合えば「私もまた働きたいな」って思ってもらえたらなと。非常にささやかな願いとして、採用にもつながったらなと思っています。

なるほど。採用というよりも、広報やファン作りに近いのでしょうか?

吉本氏:
そうですね。「濃いファン」というか、お客様でもあり「一番近い存在」でいてくれている大事な方たちなので、長いお付き合いができればいいですし、採用はその延長線上にあるひとつの形だと思っています。
それから、スープストックトーキョーで働いていたことを誇りに思ってもらえたらと思うんですよね。

例えば、主婦さんは何かのコミュニティに属するってそんなに多くないと聞きます。ママ会やご近所の会はあるかもしれないですが、お仕事を辞めると所属するコミュニティが少なくなってしまったり。同世代で、会社を辞めて子育てをはじめた友人たちの言葉でそうした気づきがありました。そうした中で、バーチャル社員証のつながりが何か社会と繋がっているポイントになったり、「私はこのブランドが好き」「私はこんな素敵な場所で働いていた」ということがその人のアイデンティティや自信になったりするといいなって思います。

江澤氏:
今働いているお店のメンバーからも嬉しいという声をよく聞きます。

バーチャル社員の方が来てくれると「どこのお店で働かれていたんですか?」、「私ここで働いていたんだよ」という会話から一気に距離感が縮まることも。卒業した方が来てくれていると、お店のメンバーも体温があがるんですよね。

スープストックトーキョーさんの組織づくりや採用の在り方って、日本企業の採用のあるべき姿なのかもしれません。採用のための採用というより、ファンづくりをしていて結果的にいい人が採用できる形はベストなのかなと。

江澤氏:
せっかくブランドに共感してくれているので、採用で押し売り感が出て嫌になっちゃうのは寂しいというのはありますね。バーチャル社員の方々はファンでいてくれているので、いうならばお客様としていろいろな周りの方を連れてきてくれたらそれで十分でもあるんですよ。

私たちはブランドとしてCMや広告を出していないので、どこまでいっても人づての口コミが大事。人づてで広がっていくことの方が本当の意味での広告だと思っているので。一番はブランドを「好き!」と伝えてくださる方でいてもらえたらと思います。

スープストックトーキョーで働いていたことを誇らしく思ってもらって、会社の取り組みをその方が話してくれたり広めてくれたり、誰か連れてきてくれたり。副産物として採用に繋がったら嬉しいなぁという感じですね。

吉本氏:
バーチャル社員証の目標は採用の成果や数値というよりも、こういう体験をしてほしいというものなので。江澤からのアドバイスも、「ここは何人集客しなきゃいけない」ではなくて、「言葉尻をこういう風に変えた方が受け取り手の人がワクワクするんじゃない?」、「こういうことをした方がもっと喜んでもらえるんじゃない?」というように。あくまで自分がもし参加者だったらという観点なんです。

江澤氏:
もちろん数値面を見ることは大切なんですが、いくら出したからそれに対してこうじゃないと見合わないと言い出したら、何もできなくなってしまうかなって。必要と思う投資をするかしないかのジャッジは「世の中の体温をあげる」という理念にかなっているかどうか。誰かが喜ぶ、確実にこの人が笑顔になるのが見えている―そんな価値があるなら投資すべきだと思っています。

バーチャル社員証も「世の中の体温をあげる」取り組みの一つとして、みんなの意見や「もっとこうだったら良くなるのに」の声を聞きながら、こだわりをもって続けていきます。

編集後記

今回は、スープストックトーキョーさんのアルムナイ制度「バーチャル社員証」についてご紹介しました。アルムナイ採用だけではなく、あくまでも1人1人と繋がっていたいという想いを大事にしている。そして、相手の立場にたった一つ一つの取り組みの“こだわり”がとても素敵なものでした。

スープストックトーキョーで働いた人がみんな誇りをもって繋がり続けたいと思える、人の温もりのあるブランドの繋がりが広がっていくのでしょう。つながりを大事に、ファンを大事にしていきたい企業様、ぜひアルムナイ制度を考えてみてはいかがでしょうか。

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