ジョブローテーションのメリットデメリットから見る、導入の向き不向き

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目次

  • ジョブローテーションとは ?
  • ジョブローテーションの期間・頻度
  • ジョブローテーションが導入される背景
  • ジョブローテーションによるメリット
  • ジョブローテーションによるデメリット
  • ジョブローテーションに適している企業の共通点
  • ジョブローテーションに適していない企業の共通点
  • ジョブローテーションを成功させるポイント
  • ジョブローテーションの導入フロー
  • まとめ

戦略的に人材の異動や、業務変更を行う「ジョブローテーション」。ジョブローテーションは多岐にわたる部署と業務を経験できるため、最終的には身に着けた経験と視野を活かして社内のゼネラリストを育成できる制度でもあります。しかし、メリットがある一方、スペシャリストの育成などにデメリットも。
当記事では、ジョブローテーションのメリット、デメリットから、導入に向いている企業、向いていない企業を紐解きます。

ジョブローテーションとは?

ジョブローテーションとは、社員の能力開発のために、部署や職務を戦略的に変更することをいい、短期的なポジション補充ではなく中長期的な人事戦略をもとに行われます。
社員に多岐にわたる業務経験を積んでもらうことや、様々な部署の業務知識を身に着けてもらうことを目的として実施されることが多いものです。

会社側の都合で行われる場合が多いジョブローテーションに対して、社員の希望や意向に沿った異動である、社内公募制度と社内FA制度のことをインターナルモビリティといいます。
下記記事では、インターナルモビリティの概要からメリット・デメリット、導入する際の注意点について解説しています。是非合わせてご覧くださいませ。
グローバルな人材と企業を育てる!
インターナルモビリティの重要性

ジョブローテーションの期間・頻度

一般的なジョブローテーションの期間は、社員育成の目的によって異なるため、ジョブローテーションの制度設計をする際は注意しましょう。

①【例】新卒社員・新入社員に対してのジョブローテーション期間
例えば、入社したての新卒社員に対してジョブローテーションを行う際は、「彼らの適正を見つけること」を目的とすることがおすすめです。
ジョブローテーション期間を短期的かつ高頻度で行うことで、新卒社員に様々な部署を経験させることができるので、彼らが今後どのようなキャリアを歩みたいのか、自身の強みや弱みは何で、どういった職種に携わっていきたいのかなのかというイメージが持てるようになるでしょう。
新卒社員はビジネス経験も無いに等しいと言えるため、自分が社会人として生きる中でどういったキャリアを積んでいく予定か、また、自分はどういった業務が得意で、何をしたいのか、どのような仕事をしている自分に価値が感じられるかが不明であることも多いです。そのため、ジョブローテーションによって様々な業務経験を積むことが自身のキャリアプランを組み立てるきっかけになるでしょう。

②【例】幹部候補社員に対してのジョブローテーション期間
幹部候補社員に対してジョブローテーションを行う際は、「会社全体を俯瞰できるようになること」や「マネジメントスキルを上げること」を目的に行うことがおすすめです。
ジョブローテーション期間は長期的かつ低頻度で行うことで、社内に存在する部署一つ一つに対する理解が深まり、多角的な視点を持つことができるでしょう。
多角的な視点を持った人材は、一つの点で物事を考えるのではなく、これまでの経験に準じながら物事を判断できます。

ジョブローテーションが導入される背景

どのような理由でジョブローテーションが企業に導入されていったのでしょうか?

導入される背景①:終身雇用制度

ジョブローテーションが多くの日系企業に取り入れられるようになった背景に、終身雇用制度があります。

日系企業の新卒採用では、メンバーシップ型雇用と呼ばれる、高校や大学を卒業したばかりの学生を一括採用する採用方法が一般的で、定年退職まで彼らの雇用を保障する「終身雇用」で雇うことが当たり前となっていました。
ジョブローテーションは数年単位で社員を様々な部署に異動させることによって、幅広い業務経験を積ませる人材育成方法のため、長く企業に留まることを前提とした雇用方法である終身雇用と相性が良いのが特徴です。その結果、終身雇用制度を採用している日系企業では、ジョブローテーションを社員育成プログラムとして活用することが一般的に普及していったのです。

導入される背景②:ゼネラリストの育成

企業はなぜジョブローテーションを取り入れるのでしょうか。
それは、ジョブローテーションを取り入れることにより、幅広い視点を持ったゼネラリストの育成が可能となるからです。

また、社員がジョブローテーションによって複数部署の経験を積めば、得られるメリットも多いでしょう。

例えば、
①部署同士のつながりに対して理解を深められるので、多角的な視点で業務を行うことができること
②異動するごとに人間関係が構築されるため、部署の垣根を越えて他部署の社員と協力しながら、業務を行うことができること
などがあります。

社員はジョブローテーションによって、幅広い業務経験を身に着けることができるので、企業はそこで得た経験を自社業務に活かしてもらい、最終的にゼネラリストとして活躍してほしいと考えているのです。

ジョブローテーションによるメリット

ジョブローテーションを取り入れるメリットを下記で解説します。

企業のメリット:ゼネラリストとしての人材育成

1つ目は、「ゼネラリストとしての人材育成」です。
ゼネラリストとは、「オールマイティで広範囲にわたる知識を持っている人材」のことをいい、「全体的な」という意味を表す「ゼネラル」が由来の言葉です。
様々な業務を異動によって経験できるジョブローテーションは、幅広い業務知識を身に着けることができるため、ゼネラリストの育成に効果を発揮するでしょう。
そのため、広い視野から物事を判断しなければならないマネージャーなどの人材育成に向いています。

企業のメリット:属人化の防止

2つ目は、「属人化の防止」です。
属人化とは、特定の業務の進め方や、作業方法を特定の人しか把握していない状況を指します。属人化している業務があると、とある社員が体調不良などを理由に不在としている場合に、業務進捗が全く進まなくなることも考えられます。
ジョブローテーションを行うことによって、業務ノウハウを新しい人材に次々に広めることができるため、社内に特定業務を理解している人を複数存在させることが可能となります。その結果、属人化を防止できることが期待されます。

社員のメリット:自分の適性を知ることができる

3つ目は、社員がジョブローテーションによって自分の適性を知ることができるということです。
ジョブローテーションは様々な部署の業務に関わることができる制度であるため、自分自身の向き不向き、得意不得意な業務が明らかになるともいえるでしょう。ある部署では成績が振るわなかった社員が、とある部署に異動した途端思わぬ成果を上げるということも考えられます。
自分の今後のキャリアの方針がまだ決まっておらず、自分にはどのような業務が向いているのかを理解していない社員にとっては、異動によって自分の適性を知ることができる好都合な人事制度でもあります。

社員のメリット:社内ネットワークの形成が促進できる

4つ目は、社内ネットワークの形成が促進できる点です。
異動を行わず一つの部署で長く働いていると、一緒に仕事をする相手は限られることが多いですが、ジョブローテーションにより異動を行うことによって、これまで一緒に仕事をしてこなかった人との交流をすることができます。
社内で顔見知りを増やすことができれば、例えば部署をまたいだプロジェクトに携わるときなど、初対面の相手と業務を行うよりも、スムーズにコミュニケーションを行い、業務を進めることができます。社員の社内ネットワークの形成に、ジョブローテーションは効果的です。

ジョブローテーションによるデメリット

上記で、ジョブローテーションを行う際のメリットを記載しましたが、対してデメリットは一体どのような点なのでしょうか?

企業のデメリット:早期離職を引き起こす可能性がある

1つ目は、社員の意向を無視した異動や配属を行ってしまうと、早期離職を引き起こす可能性があるということです。
ジョブローテーションは、様々な社員を異動させることによって、これまでいた社員とは異なる人材が持つ発想やアイデアを部署に取り入れることができるため、組織に新しい風をもたらすことのできる人事制度です。
しかし、社員の意向を無視して人事配属を行ってしまうと、社員の不満を買うこともあることを考慮せねばなりません。
社員が自分自身に対して考えているキャリアアッププランなどを無視した人事配属は、モチベーション減少に関わってしまい、「ほかの会社に転職した方が自分のキャリアを実現できる」と考える人材が増える要因にもなってしまい、最終的に人材流出のリスクにもなりえるでしょう。

企業のデメリット:スペシャリストの育成が難しい

2つ目は、スペシャリストの育成が難しいということです。
ジョブローテーションは、社員が異動を繰り返すことによって多くの部署を経験でき、最終的にゼネラリストを目指すことができる人材育成制度ではありますが、社員が特定の業務を深くまで理解していないまま、点々と異動を繰り返す可能性があります。
深くまで業務理解が及んでいない社員が増えてしまうと、特定分野の知識や特殊技能を持って活躍できるような人材が育たない要因になってしまいます。その結果、一つの業務に精通するスペシャリストが社内にいなくなってしまうこともあり得ます。

社員のデメリット:一つの職種を極めることが難しい

3つ目は、一つの職種を極めることが難しくなってしまうことです。
企業の中には、エンジニア、営業、事務、クリエイティブ、マーケター、コンサルタント、人事など、多種多様な職種(業務)があります。
ジョブローテーションに伴う異動の中で、社員が「この業務を極めたい」と思う仕事を見つけたとしても、またジョブローテーションによる異動をしてしまっては、次の配属先の業務を一から覚え直すことになってしまいます。
結果的に、ある分野の業務を極めることが難しくなってしまう可能性があるのです。

社員のデメリット:希望しない部署に配属される可能性がある

4つ目は、希望しない部署に配属される可能性がある、ということです。
ジョブローテーションは自分の適性を知ることができる制度ではありますが、既に自分が極めたい業務を見つけている社員にとっては苦痛となり得ることも考えられるでしょう。
中には、バックオフィス側の部署から、営業へ転換するような配置転換もあり得ます。
このように、希望していない業種や業務をジョブローテーションによって任されることもあるため、一部の社員にとってはストレスがかかる制度でしょう。

ジョブローテーションに適している企業の共通点

ここまで、ジョブローテーションによる企業と社員それぞれのメリット、デメリットを解説しました。メリットもデメリットも多いジョブローテーションですが、どのような企業に向いているのでしょうか。

中長期的に人材を育てることができる余力がある企業

一つ目は、中長期的に人材を育てることができる余力がある企業です。
ジョブローテーションは、一定の期間が過ぎたのち、社員を他部署へ異動させる人事制度ですが、デメリットとして、社員が他部署へ異動をしたときにこれまでの培った経験やスキルとは別の新しい業務を身に着けてもらうことになります。
これは、社員が今一度改めて新業務の教育を受けるということを表し、経験がある社員も異動を行えば新たな業務の覚え直しになってしまうため、企業にとっては育成コストがかかる制度ともいえます。
そのため、コストをかける余裕があったり、中長期的な長い視点で人材を育てる余力がある企業に向いているといえるでしょう。

複数の業務が連動している企業

二つ目は、複数の業務が連動している企業です。
複数の業務が連動している業態を持つ企業でジョブローテーションを行うと、社員は各々の業務の経験ができるので、結果的に事業にまつわる複数の業務理解を深めることができます。
また、複数業務を社員に経験させることによって、今行っている業務の先にどんなフローを行うのかが分かり、先を見通した作業が可能となります。「この後○○という問題が起きそう」だと予測することもできます。結果的に業務を円滑に進めることができます。

企業統合を行った企業

三つ目は、企業統合を行った企業です。
M&Aや異なる企業から入社した社員が存在する企業、複数の支店や店舗が存在する企業は、社員全体に理念や企業文化が浸透していないことが多いのではないでしょうか。
そこでジョブローテーションを導入することによって、企業文化の理解が浅い社員と理解が深い社員が共に業務を行うことによって、企業文化を浸透させるきっかけにもなるのです。

ジョブローテーションに適していない企業の共通点

逆に、ジョブローテーションに適していない企業の共通点は何でしょうか。

社員に理解してもらえるようなジョブローテーション戦略を立てられていない企業

一つ目は、社員に理解してもらえるようなジョブローテーション戦略を立てられていない企業です。
ジョブローテーションは、社員の今後のキャリア形成に大きく関わるような、一人ひとりの人生に影響を与える選択といってもよいでしょう。そのため、「何のためにジョブローテーションを行うのか」「どのくらいの期間で何を行うのか」などといった、詳細まで設計できていないままジョブローテーションを行ってしまうと、社員の不信を招き、モチベーションの低下や離職を引き起こす可能性もあります。

長期的なプロジェクトが多い企業

二つ目は、長期的なプロジェクトが多い企業です。
ジョブローテーションは、社員に様々な職種に携わってもらいながら経験を積ませる人材育成の方法ですが、例えば長期プロジェクトの進行中に人材が頻繁に入れ替わってしまうと、プロジェクトの流れを理解している人材がいなくなってしまったり、新しい人材に業務を教える工数もかかってしまったりします。その結果、プロジェクトが滞ってしまうこともあり得ます。
また、異なる企業同士で協力してプロジェクトを進めている場合に、人材異動が頻繁に起こってしまうと、プロジェクトの遅延やミスにつながってしまい、お客様の批判を買ってしまう可能性も考えられます。

専門性が高い業務を取り扱う企業

三つ目は、専門性が高い業務を取り扱う企業です。
技術の取得が必要な専門性の高い業務を扱う企業の場合、ジョブローテーションを行ってしまうと、業務に対する知識やスキルを深めることが困難となってしまい、結果的に業務に必要なスペシャリストを育てることが困難となってしまいます。
ジョブローテーションを行ってしまうと、新しい人材に指導工数もかかってしまうため、導入に向かないと言えるでしょう。

ジョブローテーションを成功させるポイント

ジョブローテーションを成功させるポイントは、どのような点でしょうか。

タレントマネジメントの視点を取り入れる

一つ目は、ジョブローテーション戦略にタレントマネジメントの視点を取り入れるということです。
タレントマネジメントとは、社員が持つ能力やスキルなどの情報を経営資源として考え、社員が持つスキルやノウハウを最大限生かすために戦略的に人事配属や人材育成を行い、社員と組織のパフォーマンスの最大化を目指すことをいいます。

ジョブローテーションは、社員育成のために行う人事異動制度のことですが、行う際、企業の利益のみを考えるのではなく、企業と社員の双方が納得した上で行うことが重要です。
ジョブローテーションのゴールに、社員と組織双方のパフォーマンス最大化を目指すタレントマネジメント視点を取り入れることで、社員一人ひとりの能力や経験に基づいた人事戦略を立てやすくなります。人事戦略を立てる際に、社員が目指すキャリアプランが企業内でどう活きるかを考え、実施することによって、社員も「自分のキャリアを一緒に考えてくれている」「自分は会社のために必要とされている」と社員も感じることができるので、最終的に社員のモチベーションやエンゲージメントも高まるのです。
結果的に、タレントマネジメントを取り入れることで、ジョブローテーションを行う際、社員に企業で働くイメージを持ってもらいやすくなるでしょう。
よって、ジョブローテーションを行う際は、企業の利益だけを求めるのではなく、社員の考えにも寄り添いながら、計画を立てることが重要でしょう。

この際、社員がゼネラリストなのか、それともスペシャリストを目指したいのかを確認する必要があります。知識や経験を幅広く身に着けたいと考えるゼネラリスト志向の社員がジョブローテーションに向いているといえるでしょう。

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企業内でのサポート体制を整える

二つ目は、企業内のサポート体制を整えることです。
ジョブローテーションを行う際、指導マニュアルや育成計画が定まっていないと、社員には不平感を感じさせてしまい、異動先の工数もかかってしまいます。
また、社員の転勤が発生する異動の際は、社員に引っ越し先や資金面の負担を強いることが考えられます。
ここで、ジョブローテーションが行われる際の指導マニュアルを作成しておいたり、転勤時の費用サポート制度などを整えておくことによって、企業と社員双方のジョブローテーションに対する負担を減らすことができます。

ジョブローテーションの導入フロー

①対象者の選定

まずは、対象者を選びましょう。
会社でジョブローテーションを取り入れる目的を明確にしながら、その効果を最大級に活かせる社員を選びます。なお、本人の働き方の評価や、ゼネラリスト志向かスペシャリスト志向かなど本人のキャリア志向も考慮することが必要です。
新しいプロジェクトに参画してもらうことや、マネジメント経験を積んでもらうことなど、これまでの本人の経験を考慮しつつ選択を行い、会社がより発展するような人材配置を定めましょう。

②ジョブローテーションの戦略設計

「ジョブローテーションを何のために行うのか」「今後のキャリア選定の流れ」「どの程度の期間行うのか」など、ターゲットに寄り添いながら戦略をプランニングすることが大切です。
この際、社内で活躍している人材の異動パターンを可視化しておくことによって、ターゲットも自分のキャリアと照らし合わせやすくなるので、理解も得やすくなるでしょう。
また、受け入れ先の教育体制や、転勤時のサポート制度など、社内制度も整えておくと、社員の納得感が増すでしょう。

③対象者とのすり合わせ

組織の期の変わり目など、区切りのいいタイミングで対象者と面談を行いましょう。
それまでに対象者がどのように今後のキャリアを描いているのかをシートなどに記載してもらえば、社員の考えも理解しやすくなるので、面談が進めやすくなります。
ここでポイントとなるのが、いきなり異動の話をしないことです。
面談でいきなり異動の話を出してしまうと、自分の評価が低いから異動になってしまったのだと社員に勘違いされてしまうこともあるでしょう。
そのため、今後のキャリアの進退や、なぜ対象者になったのかなど、対象者の考えを尊重しながらジョブローテーションの目的について説明することが重要です。異動によってどのような経験を積めるのかなど、対象者とすり合わせて、納得感を感じてもらうことが必要となるでしょう。

④ジョブローテーション中のフォロー

ジョブローテーション実施で終わりではなく、該当の人材へフォローを行うことが重要です。
ジョブローテーション実施中に面談を行うなど、キャリアプランはぶれていないか?戦略通りにスキルアップが進んでいるか?など確認をしつつ社員のモチベーション維持を試みましょう。

まとめ

様々な企業で導入されているジョブローテーション。
社員の意向に沿わない、納得してもらえないようなジョブローテーションは社員の不平不満を買う原因となります。重要なことは、企業は社員に最大限のスキルを発揮してもらう人事戦略を考えること、社員はジョブローテーションに納得する形で自身のキャリアプランに合わせて異動することです。
「企業」「社員」双方が納得できる仕組みを作ることが成功のポイントだといえるでしょう。